人間関係

鳥インフルで数億の損害 -養鶏農家の苦労とやりがい-

プロフィール

年齢:46歳
性別:男性
職業:養鶏農家
趣味:ランニング、ゴルフ

自分史

私は宮崎県西都市で生まれ育ちました。祖父の代から続く養鶏農家の長男として、物心つく前から鶏とともに生きてきたと言っても過言ではありません。朝晩の見回りは日課で、学校に行く前に鶏のエサをやり、帰宅してからまた世話をする。そんな生活が当たり前の環境で育ちました。幼い頃は大人しく真面目な子で、鶏小屋の中で祖父と過ごす時間が何より好きでした。寒い朝、白い息を吐きながら祖父と並んで歩いた光景は、今でも鮮やかに覚えています。

小学生の頃には外では活発に過ごしていたものの、内面はどこか慎重な性格で、人と争うよりも和を重んじるタイプでした。運動会でリレーのアンカーを務めたときは、周囲の応援に背中を押されながら、最後まで走り抜けたあの達成感を今でも思い出します。そして、そのとき芽生えた「あきらめなければ道は開ける」という感覚は、今の私の根っこにある教訓です。

思春期に入ると、反発心が芽生えました。「自分は家業を継がない」と口にし、進学して地元を離れることに執着していたのもその表れでした。しかし、ラグビー部での厳しい練習や仲間との信頼関係が、次第に自分を変えていったのだと思います。体力も気力もギリギリまで追い込まれる中で、弱音を吐かずやり抜いた経験が、自信と誇りを育ててくれました。

大学に進学してからは、農業の奥深さと同時に、両親の背中の尊さを改めて感じるようになりました。別の地域の先進的な養鶏農家を訪れた実習で、自分の家業にもまだまだ可能性があることに気づき、迷いは次第に覚悟に変わっていきました。卒業後は迷わずUターンし、就農を決意しました。

社会に出てからの前半は、がむしゃらでした。父と一緒に汗を流しながら経営のことも少しずつ学び、夜は事務所で帳簿を見てはノートに計算を繰り返す日々。それでも苦ではなかったのは、「この道を自分の手で切り開くんだ」という強い思いがあったからです。やがて30代で経営を引き継ぎ、最新設備を導入し、新しい販路の開拓にも乗り出しました。

しかし、最大の試練は数年前の鳥インフルエンザによる全羽殺処分でした。それまで積み上げてきたものが一瞬で崩れ落ち、頭が真っ白になる思いでした。けれど、家族がそばにいてくれたことで、私は再び立ち上がることができました。妻は経理の面だけでなく、心の支えでもあり、子どもたちも「また頑張ろう」と前を向かせてくれました。そして、ようやく再開できた卵の出荷。家族でその卵を食べた瞬間の味と涙は、私にとって生涯忘れられない一番の思い出です。

今は、責任を背負いながらも、人に任せることの大切さも学びました。地域の若手農家とも連携しながら、新たな世代にこの仕事のやりがいと誇りを伝えていきたいと思っています。私の価値観の中心には、常に「誠実であること」があります。それは祖父が背中で教えてくれた生き方であり、私が最も憧れる人物でもあります。鶏にも人にも丁寧に向き合い、道具を大切に扱いながら静かに語るその姿こそ、私の原点です。

ランニングやゴルフで体と心を整えながら、これからも地域と家族とともに、養鶏という仕事を真っすぐに続けていきたいと思っています。

インタビュー

人生一番の成功はなんですか ?

鳥インフルエンザで全羽を殺処分し、経営がゼロになった状態から、家族とともに立ち上がり、再び卵の出荷ができるまでに立て直したことです。たった一個の卵が、これほど尊く感じられたことはありません。

人生一番の成功から学んだことはなんですか ?

「本当に大切なものは、失って初めてわかる」ということです。そして、それを取り戻すには時間と覚悟、そして支えてくれる人の存在が何よりも必要だということを実感しました。

人生一番の失敗はなんですか ?

正直、鳥インフルによる損害そのもの以上に、「自分は大丈夫だ」という慢心が一番の失敗だったと思っています。周囲の声や変化の兆しを見逃し、対応が後手に回ったことを後悔しています。

人生一番の失敗から学んだことはなんですか ?

どれだけ順調なときでも、常に「最悪のケース」を想定して備えておくこと。そして、当たり前が当たり前でなくなることもあるという危機感を持って、謙虚に向き合うことの大切さです。

人生で一番大切にしている価値観はなにか ?

「誠実さ」です。派手な成果よりも、日々の積み重ねや相手への敬意が最終的に信頼を生む。どんなに時代が変わっても、これは揺るがないと思っています。

なぜそれを人生の価値観と考えましたか ?

祖父や父の背中を見て育ったからです。無口でも、鶏にも人にも丁寧に接する姿に、言葉以上の誠意を感じていました。私自身もその姿勢を受け継ぎたいと思うようになりました。

人生で一番大切にしている価値観をもった具体的なエピソードはなんですか ?

インフル被害の後、県外の取引先に再契約をお願いする際、過去に丁寧に対応していたことを覚えてくださっていて、「あなたならまたやれる」と言っていただけたんです。誠実な関係は、どんな危機のときにも力になると実感しました。

これからやりたい夢や目標はなんですか ?

地域の若手農家と一緒に、新しいブランド卵を立ち上げたいと考えています。単なる生産ではなく、「物語のある卵」を届けて、消費者との距離を縮めるような仕事にしていきたいです。

読者へのメッセージみなさんへのメッセージ

人生には、想像もしない苦難が突然訪れることがあります。でも、乗り越えられる力は、自分の中だけじゃなく、家族や仲間、そして過去の行いの中にも宿っています。どんな時も、人に誠実であること。それが、自分を支えてくれる大きな力になると私は信じています。

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