人間関係

地味な仕事でも会社のために -経理としての責任感-

プロフィール

年齢:52歳
性別:女性
職業:中堅メーカー経理部
趣味:ミュージカル、週末の読書、地元の銘菓めぐり

自分史

私は、新潟県長岡市の雪深い商店街にある文房具店の娘として生まれました。両親は毎日、早朝から遅くまで働き詰め。店番の合間に帳簿をつける父の横で、私は静かに絵を描いて過ごしていました。店の片隅で感じた鉛筆の匂いと紙の感触は、今でも私の原風景として心に残っています。幼い頃から、「表には出ないけれど確実に誰かを支えている仕事」がこの世にはあるのだと、自然に学んでいたように思います。

学校では、私はいつも“目立たない優等生”でした。宿題は必ず提出し、先生からは信頼される存在。でも、友人たちの中心にいることはありませんでした。それでも不思議と孤独は感じませんでした。クラスの文集係や会計係を引き受け、みんなのために働く時間に、私はささやかな充実感を覚えていました。自分のことを強く主張するより、誰かを支えることに喜びを感じる。そんな気質は、この頃からはっきりしていたのかもしれません。

地元の進学校を経て、都内の大学に進学。商学部で会計を専攻したのは、数字の裏にある意味や、積み重ねた記録が未来を照らすように思えたからです。初めての一人暮らしは不安もありましたが、本屋でのアルバイトと、静かな読書の時間が心の拠り所でした。店の片隅で会計書や経営者の自伝に触れ、将来の自分の姿を少しずつ思い描くようになりました。

卒業後は中堅メーカーに入社し、経理部へ配属。伝票整理に月次決算、監査対応と、まさに“裏方中の裏方”とも言える業務を一手に担ってきました。毎月、正確に数字を積み上げていくことの責任と、そこに潜む緊張感。新入社員の頃は、初めて決算を任され、ミスがないか何度も確認しては帰り道に安堵で涙をこぼしたこともあります。それでも続けてこられたのは、自分の仕事が確かに誰かの役に立っているという、揺るがぬ実感があったからです。

30年以上同じ会社に勤め、今では課長職となり、若手の育成や業務フローの改善にも携わっています。自分のやり方を押し付けるのではなく、後輩が“自分で気づけるように”支えることを意識しています。後輩に「このやり方、先輩に教わったおかげです」と言われたとき、私は初めて、自分が積み重ねてきた時間に誇りを持てたような気がしました。

そしてもう一つ、大切な転機がありました。それは娘が社会人になり、初めての給料で私に小さな贈り物をくれた日です。「お母さんみたいに、ちゃんと働けるようになりたい」と笑って言ってくれたその言葉は、何よりも心に沁みました。私はずっと“誰かを支える人生”を選んできました。それが決して華やかではなくても、誇れる道だと今、はっきり思えます。

目立たなくてもいい。誰かが気づかなくてもいい。それでも、誰かのために静かに手を差し伸べることにこそ、自分の価値があると信じています。そしてこれからも、そうありたいと願っています。

インタビュー

人生一番の成功はなんですか ?

娘が社会人として独り立ちし、「お母さんみたいに働けるようになりたい」と言ってくれたことです。家庭と仕事の両立に悩んだ時期もありましたが、娘の言葉で、自分の歩みが誰かにとっての「手本」になっていたのだと知り、心から報われた思いがしました。

人生一番の成功から学んだことはなんですか ?

行動は、言葉以上に人の心に残るということです。私がしてきたことは、決して大きなことではありません。ただ、毎日を丁寧に、一つひとつの仕事を誠実に積み重ねてきただけ。でもその姿が、いつか誰かの背中を押すことになるのだと気づかされました。

人生一番の失敗はなんですか ?

若い頃、完璧を求めすぎて、同僚のミスにも厳しく接してしまったことがあります。相手を責めるような態度を取ってしまい、関係がぎくしゃくしてしまいました。自分の正しさに固執しすぎて、人の気持ちを置き去りにしていたのです。

人生一番の失敗から学んだことはなんですか ?

「正しさ」より「思いやり」が大切だということです。経理という仕事は、数字の正確さが求められる分、冷たく見られがちですが、その中にこそ人との信頼が必要だと気づきました。以降、誰かの失敗にはまず耳を傾け、支える姿勢を大切にしています。

人生で一番大切にしている価値観はなにか ?

「目立たなくても、人の役に立つことに誇りを持つ」ことです。

なぜそれを人生の価値観と考えましたか ?

両親がそうだったからです。商店街の一角で、目立たず誠実に働き続ける姿を見て育ちました。誰かに褒められるわけでもない日々の中にこそ、人としての真価がある――そう信じて、私も生きてきました。

人生で一番大切にしている価値観をもった具体的なエピソードはなんですか ?

若手社員に業務の引き継ぎをしていたとき、「この資料の作り方、先輩が教えてくれたから自信を持って出せました」と言われたことがあります。私が何気なく伝えた“確認のくせ”や“気を配る視点”が、次の世代の支えになる。こうして誰かの「基準」になれたことが、何より嬉しかったです。

これからやりたい夢や目標はなんですか ?

定年を迎えるその日まで、若い世代に安心して任せられる職場づくりをしたいと思っています。そしていつか、退職後には、地元・長岡の商店街で、会計のアドバイスができるような小さな活動ができたらとも考えています。原点に立ち返り、地域の人の役に立つ人生の締めくくりを迎えたいですね。

読者へのメッセージみなさんへのメッセージ

華やかなことをしなくても、SNSで注目されなくても、毎日を丁寧に生きる人がいて、世の中は動いています。目立たなくても、あなたの仕事や存在には、必ず意味があります。どうか、自分を小さく見積もらず、静かに誇りを持って進んでください。

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